後回しにした香箱。
これには一つ問題があります。
それは、切れている。
長洲〇力の声が聞こえるって?
うるさいなあ。切れてますよ。
リュウズを回しても回してもパチッと音がしていつまでたっても巻き止まりまでいきませんからね。間違いなくどこかで切れています。
切れているにも関わらず彼は4時間おきにゼンマイを巻いて使い続けていました。
なぜこの段階で修理に持って行かなかったのかは不明です。
集合時間に遅れがちだったのにはこの時計が隠れている??
まず開いて現状確認。
うーん、どこかが切れているようにも見えないんだけども。
ぐいぐいとゼンマイを引き出してみます。
弾けないようにゆっくりゆっくり指で取り出してみたところ...
一番後ろが切れている。
「なんだ、これっぽっちのちぎれ具合なら問題なさそう」と思ったならばこれが大間違い。かなり重要な部分なのです。特に手巻きだと。
他のかたが作った簡易な図説があるのでお借りします。
今回は右図にある、ひっかけの部分がお亡くなりに。
この”かえし”のおかげでゼンマイが勝手にほどけなくなり、巻上が成立するわけです。無ければ香箱の中でくるくると回り続け、力がいつまでたっても蓄積されません。
現状のままでは数時間しか持続しない腕時計になってしまうため、合わせで交換をしましょう。
右がドナー。同じ25.6mm径の機械から。
厚さの違いは0.1mm、径が元香箱が11.15mm、ドナーが10.7mm。
ひと回り小さなドナーですが、持ち主からは「使えるように」なればよいと指示が出ていますから、まずこれで様子をば。
中身を入れ替えるとこんな感じ。
見てもわかりませんよね。私もわかりかねます。油はAOオイルか、S-3のようなモリブデン系か。
でも巻上りでリュウズが押し返されるようになったことから大丈夫と様子見。
40時間前後で停止を確認。10倍以上稼働時間が伸びたと考えたらまさに「蘇った」Seahorse。
家を出る前に巻いて昼食時には止まっている悲しみとはおさらばです。
交換・OH直後のタイムグラファー。平置き
線もガタツキが出てませんし、とりあえず220°程度回っています。これより前は180°すら回らない弱さでした。
片振りは無理に直すくらいならこれくらいで置いておく方が安全。ヒゲ玉いじりは3.0ms超えたくらいから考えるようにしています。
これでやっとこさ実用レベルの時計に戻りつつあるSEIKO Seahorse J13032。
もう少しランニングテストをしてからケースに詰めます。
ゼンマイが切れて力が弱かったおかげでテンプ受石の摩耗が少なく済んだと考えています。
油切れでフル巻でガシガシつかってたらここがへこんでいることも...。
ちぎれて良かった、というと怒られるな。不幸中の幸い。
では、またお会いしましょう。